
ICL(眼内コンタクトレンズ)は、視力矯正手術の中でも近年注目度が高まっている治療法です。
レーシックとは異なり角膜を削らず、眼内に薄いレンズを挿入することで視力を改善するため、強度近視の方や角膜が薄い方でも受けられることが特徴です。
しかし、ICLは誰でも受けられるわけではなく年齢制限があり、『原則21歳〜45歳くらいまで』が推奨されています。
この記事では、ICLの適応年齢、年齢制限がある理由、年齢以外の適応条件などについて詳しく解説します。
ICLが受けられない年齢の方でも受けられる矯正治療法も紹介しますので、ぜひ最後まで記事をチェックしてみてください。
ICL(眼内コンタクトレンズ)とは

ICL(Implantable Collamer Lens/眼内コンタクトレンズ)は、目の中に特殊な人工レンズを挿入し、屈折異常(近視・遠視・乱視)を矯正する屈折矯正手術です。
レーシックとは異なり角膜を削らずに視力を矯正でき、レンズは虹彩と水晶体の間に挿入されるため、毎日のお手入れもありません。
また、必要に応じてレンズを取り出せる「可逆性」があるため、将来的に白内障手術など別の治療が必要になった場合にも問題なく手術できます。
日帰り手術が可能で手術時間も10分〜20分程度と短く、翌日から仕事に復帰できるケースも多いため、日常生活の負担が少ない治療法です。
ICLは適応範囲が幅広く、強度近視や角膜が薄い方など、レーシック適応外の方も受けられることから、近年注目を集めています。
ICLの適応年齢は原則21歳〜45歳くらいまで

ICLの年齢制限については、日本眼科学会屈折矯正委員会『屈折矯正手術のガイドライン(第 7 版)』に基準が記載されています。
このガイドラインには「近視進行を考慮し、18歳以上から手術可能」といった内容が書かれており、年齢の上限については明確に記載されていません。
しかし、一般的なICLの適応年齢としては、原則21歳〜45歳くらいまでとされることがほとんどです。
ICLに年齢制限がある理由

ICLに年齢制限が設けられているのは、目の発育状況や視力の変動、加齢による目の変化などが年齢と密接に関わっているためです。
年齢や目の状態によっては、ICL以外の治療が適している場合もあります。
ここでは、なぜICLに年齢制限があるのか、下限と上限それぞれの理由を解説します。
21歳未満が適応とならない理由
21歳未満がICLの適応とならない主な理由は、視力が変動する可能性があるためです。
個人差はありますが、近視の多くは学童期(6歳〜12歳頃)に始まり、20歳半ば頃まで進行します。
成長期は身体の成長とともに眼軸長(目の奥行き)が伸び、視力が変化しやすいため、手術後に再度近視が進行する可能性があるのです。
また、21歳未満の若い年代は周囲の環境からストレスを受けやすく、そのストレスが視力に影響するとも考えられています。
こうした理由から、視力が完全に安定し、目の構造が成熟している21歳以上が推奨されています。
ただし中には、視力が安定していて医師が安全と判断した場合に限り、20歳前後で実施するクリニックも存在するようです。
45歳くらいまでが推奨されている理由
45歳前後がICLの上限年齢とされることが多いのは、年齢が高くなるにつれて、老眼や白内障のリスクが高まるためです。
ガイドラインでは年齢の上限は定められておらず、理論上は何歳でもICLをすることは可能です。
しかし、ICLは屈折異常(近視・遠視・乱視)を矯正する手術であり、老眼や白内障は矯正できません。
そのため老眼や白内障が始まる年齢を考慮して、45歳くらいまでが上限に設定されています。
年齢が高くなるとこの他にも糖尿病などの全身疾患を持つ方も多くなり、この点も年齢制限に影響します。
ICLを50歳以上で受けるとどうなる?

50歳を超えても、ICL手術を行うこと自体は可能です。
50歳以上でICLを検討する場合、重要となるのは「白内障の進行や水晶体の加齢変化をどう捉えるか」という点です。
何歳頃から白内障の症状が出現するかは個人差がありますが、50歳以上でICL手術をした場合、白内障が出てくると視力が下がるため、ICLによる良好な見え方を実感できる期間が少なくなってしまいます。
無理にICLをするよりも、白内障手術を受けた方が、費用的にも見え方的にも、メリットを感じる方が多いでしょう。
近視が強い方の場合、白内障になる年齢が早い傾向にあるため、年齢だけでなく目の状態も考慮することが大切です。
自己判断は難しいため、一度信頼できる眼科専門医に相談して、自分の希望や手術についてのアドバイスをもらうといいでしょう。
ICLの年齢以外の適応条件

年齢以外にも、以下のような適応条件があります。
- 目や体の健康状態(疾患の有無)
- 屈折異常の度数
- 視力の安定性
- 前房深度・瞳孔サイズ
- 体の状態(妊娠中または授乳中)
それぞれの条件について詳しく見ていきましょう。
目や体の健康状態(疾患の有無)
白内障、重度のドライアイ、緑内障、網膜剥離などの目の疾患があると、ICL手術ができません。
また、糖尿病や重度のアトピー性皮膚炎の全身疾患がある場合、手術後の合併症のリスクを高めたり、回復時間がかかる可能性があるため、ICLを受けられない場合があります。
なお、円錐角膜(角膜の中央部が薄くなり前方へ円錐状に突出する病気)の方は以前は手術が困難とされていましたが、現在では条件付きで手術ができるケースもあります。
屈折異常の度数
ICLが適しているのは、-3.0D以上の近視の方です。
以前は-6.0D以上の強度近視の方が対象でしたが、ガイドライン改定によって適応範囲が拡大されました。
視力の安定性
視力が安定していることも、適応条件の一つです。
近視・遠視・乱視といった屈折異常の度数の変動が見られる場合は適さない場合があり、少なくとも1年間は安定している必要があります。
前房深度・瞳孔サイズ
ICLは目の内部、虹彩と水晶体の間にレンズを挿入する治療であるため、前房深度が十分にあるかどうかが重要な判断基準の一つになります。
前房深度とは角膜と虹彩の間のスペースのことで、一般的には2.8mm以上必要と言われています。
人によっては前房が狭い方がおり、無理にICLを入れると眼圧が上がりやすくなるため、ICLを受けられません。
瞳孔径も同様で、小さすぎたり大きすぎたりする場合、ICLが受けられない可能性があります。
体の状態(妊娠中または授乳中)
妊娠中や授乳中の方は、ICLを受けることができません。
これは、妊娠中や授乳中の方はホルモンバランスの影響により角膜の厚さや視力が変化することがあり、手術後の見え方に誤差が起こる可能性があるためです。
また、手術前後にステロイドなどの点眼薬を使用しますが、これらが胎児や乳児に影響を与える可能性があることも理由です。
妊娠中や授乳中の方は、出産や授乳を終えた後にICLを検討しましょう。目安としては断乳後3ヶ月ほど経ってから一度眼科で相談してみるといいでしょう。
ICLが受けられない場合の矯正治療の選択肢

ICLが受けられない場合でも、視力矯正にはさまざまな方法があります。
若い方の場合、一時的に他の方法で矯正し、21歳以上になってから再度ICLを検討するといいでしょう。
40歳前後の方は、ICLを受けるメリット・デメリットについて医師からよく説明を受け、そのうえで自分に合った方法を慎重に検討することが大切です。
子ども:近視進行抑制治療
子どもの場合、近視・遠視・乱視といった屈折異常があると、弱視(視力の発達が妨げられたことで視力が出にくい状態)になるリスクが高まるため、早期に適切な治療を始めることが大切です。
今は子どもの負担を抑えて継続できるさまざまな近視進行抑制治療があるため、眼科で相談してみましょう。
21歳未満の方:メガネ・コンタクトレンズ
21歳未満は視力が安定していない場合が多いため、ICL手術を急ぐより、まずはメガネやコンタクトレンズで生活の質を高めることが推奨されます。
視力が安定してきた頃に、あらためてICLの適応検査を受けてみるといいでしょう。
21歳未満の方:オルソケラトロジー
オルソケラトロジーは、夜寝る時に特殊なハードコンタクトレンズを装用し、角膜の形状を一時的に整えることで日中の裸眼視力を改善する治療です。
子どもの場合、眼軸長の伸びを抑え近視を抑制する効果も期待できます。
オルソケラトロジーは年齢制限がなく、一般的には6歳〜60歳頃まで可能ですが、老眼が始まる年齢の場合、十分に視力を矯正するのが難しくなることもあります。
45歳以上の方:白内障手術(多焦点眼内レンズ)
個人差があるものの、45歳を過ぎると水晶体が老化し、白内障や老眼の症状が見られるようになってきます。
白内障の症状が見られる場合、複数の焦点距離にピント調整が可能な「多焦点眼内レンズ」による白内障手術を行うことで、白内障と老眼を同時に治療可能です。
白内障手術は水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入する手術で、所要時間は片眼につき10~15分ほどと短く、日帰りで手術できます。
眼内レンズにはさまざまな種類があり、希望やライフスタイルに合わせて選ぶことが可能です。
45歳以上の方:老眼用ICL(多焦点IPCL)
多焦点眼内レンズの構造を応用し、老眼にも対応可能な老眼用ICL(多焦点IPCL)も存在します。
ただし、通常のICLと比べて症例数が少なく、レンズ構造の問題により通常のICLハロー・グレアを感じやすい傾向にあるといいます。
また、水晶体を温存して行うため白内障の進行を止めることはできず、白内障手術が必要になることもあります。
45歳以上の方:老眼鏡
老眼鏡はICLや白内障手術のような眼内手術を必要とせず、誰でも手軽に始めやすい矯正方法の一つです。手術も必要ないため、手術が怖い・リスクを避けたい方にも向いています。
老眼鏡は以下のように種類豊富です。
- 遠近レンズ……外出・運転の多い方
- 中近レンズ……オフィス作業・家事に使用したい方
- 近近レンズ……パソコン作業や読書の多い方
- 近用単焦点レンズ……パソコン作業や読書の多い方
当院では、詳しくお話を伺ったうえで、患者さん一人ひとりに適した老眼鏡を処方していますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
45歳以上の方:遠近両用コンタクトレンズ
「メガネは煩わしい」「できるだけ老眼鏡はかけたくない」という方は、遠近両用コンタクトレンズ(ソフト・ハード)がおすすめです。
遠近両用コンタクトレンズは、老眼により近くが見えにくくなった方に対して、遠方と近方の視力をバランスよく矯正するコンタクトレンズです。
1枚のレンズに遠くを見るための度数と近くを見るための度数が組み合わされており、外観上の変化がないため、見た目を気にせず視力を矯正できます。
ただし、通常のコンタクトレンズと比べると見え方のシャープさが低下することがあります。
また、コンタクトレンズが使用できない方もいるため事前に必ず医師に相談しましょう。
ICLについてのよくある疑問

ここでは、ICLについてのよくある疑問を紹介します。
Q:年齢制限でICLが受けられない場合、レーシックは受けられる?
レーシックも、ICLと同様で18歳未満の方は受けられません。
また、レーシックは角膜を削る治療であるため、角膜が薄い方・角膜形状が不安定な方・強度近視の方は適応外となる可能性があります。
Q:ICLで老眼は治せる?
老眼は加齢によって水晶体が硬くなることで目のピント調節力が衰え、近くのものが見えにくくなる状態です。個人差はありますが、40歳前後から自覚し始める方が多くみられます。
ICLは水晶体の前方にレンズを挿入して屈折異常を矯正する治療であるため、老眼による調節力の低下そのものを改善することはできません。
若いときは調節力が強いため近くにもピントが合いますが、老眼になって調節力が衰えると、なかなか近くにピントが合わなくなってきます。
ICL手術をしたとしても、将来的に老眼を発症すると近くを見るときに老眼鏡が必要になる可能性があります。
ただし、近年老眼にも対応可能な老眼用ICL(多焦点IPCL)が登場しており、近視・遠視・乱視を矯正し見え方を改善することは可能です。
Q:ICLを受けても将来的に白内障手術などの手術を受けられる?
白内障はほとんどが加齢によるもので、老化現象であるため80歳を超えるとほぼ100%の方が発症します。
白内障では水晶体に濁りが生じるため、ICLでは矯正できず、白内障手術が必要です。
ICLはレンズを取り出すことが可能なため、将来的に白内障を発症した場合、レンズを取り出して白内障手術が可能です。
まとめ
ICLの適応年齢は、原則として21〜45歳となっています。
40歳以降の方の場合、将来的に老眼や白内障が発症する可能性があることを考慮したうえで治療法を検討した方が、満足度の高い治療につなげられるでしょう。
東武練馬駅から徒歩1分のつつみ眼科クリニックでは、ICLを始めとして、白内障手術や遠近両用コンタクトレンズ、近視進行抑制治療など、さまざまな治療を行っています。
詳しくお話を伺い、目の状態やお悩み、ご希望に合わせて適した方法をご提案していますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。